遺伝情報DECODE・冬のワークショップ(転写研究会共催)に参加して
村野 健作(筑波大学大学院人間総合科学研究科感染生物学)

村野 健作(筑波大学大学院人間総合科学研究科感染生物学)  2008年1月21日から3日間に渡って新潟県湯沢町の湯沢グランドホテルにて遺伝情報DECODE・冬のワークショップ(転写研究会共催)が開かれました。ホテルの客室から覗く山々は雪で覆われて空気も冷たく澄んでおり、身の引き締まる雰囲気の中、熱い議論が繰り広げられました。大変光栄なことに私の「核小体局在ヒストンシャペロンB23によるrRNA遺伝子の転写制御」についての発表がDECODE賞をいただきました。受賞者としてワークショップの見聞録を書くようにと大熊先生よりご指示がありましたので、稚拙な文章ではありますがご報告させていただきます。

 ワークショップでは27演題(残念ながら菅野先生による特別講演は取り消しとなりました。)の口頭発表と39演題のポスターによる発表が行われました。ここですべての演題に触れる訳にはいきませんので、個人的に興味深く聞かせていただいた演題についてのみご紹介します。

 日頃から自身が核小体について考えていることもあり、村山先生(筑波大学)によるNucleomethylinを含む複合体eNoSCに関する報告は大変興味深いものでした。ヒストンH3のK9ジメチル化修飾に特異的に結合するNucleomethylinは核小体に局在し、ヒストン脱アセチル化酵素SIRT1とヒストンH3K9のメチル化酵素SUV39H1をrRNA遺伝子上にリクルートすることでrRNAの転写レベルを抑制していることが報告されました。低グルコース状態におけるrRNA遺伝子とeNoSCの関連性を解析した結果から、eNoSCはrRNA合成制御を介して細胞内エネルギーのバランスを保っているという魅力的なモデルを提唱されました。rRNA遺伝子は細胞内において数百コピー存在するのですが、転写されているのはそのうちの半分程度で、残りはヘテロクロマチンを形成していると考えられています。おそらくeNoSCは転写活性なユニットの個数を制御することでrRNAの合成速度を決定していると考えられますが、血清などによるrRNA遺伝子の転写速度の増加はRNA polymerase Iの伸長速度によって制御されているとする報告もあります。細胞が受け取るシグナルに応じてrRNA遺伝子の転写制御のメカニズムも異なるのかもしれません。残念ながら、村山先生と直接お話しする機会を逃してしまいました。ただ、ポスター発表をされていたNucleometylinの解析をされている柳澤研の大森さんや藤村さん、黒田さん(MYBBP1Aの解析)と核小体について多くの議論ができ、有意義な時間を過ごすことができました。

  最後の演題で筑波大学の小林先生がおっしゃった「DECODE回路の本質はタンパク質の修飾カスケード」には、今回のワークショップの参加者の多くは賛同したのではないでしょうか。例えば、私と同部屋であった藤木さんはO-結合型N-アセチルグルコサミン修飾によるヒストンメチル化酵素の活性制御を報告されましたし、同じく同部屋でした大竹さんもダイオキシン類リガンド依存的ユビキチンリガーゼ複合体はER ・ARをユビキチン化しタンパク質分解を促進することを報告されました。他にも核内レセプターのSUMO化やコンデンシンのリン酸化について報告がありました。その中でもとてもオリジナリティーが高いと感じたのは、Nrf2-Keap1システムによる親電子性分子への応答機構の解析結果を報告された小林先生の演題でした。Keap1のBTBドメインに存在する特定のシステイン残基の親電子性分子による修飾が重要であることを示されました。システイン残基の修飾による効果を示すためにシステインをアミノ酸の中で最も側鎖の大きいトリプトファンに代えてしまうという大胆なアイディアには驚きました。発表の冒頭で未知の化学物質による親電子性分子による修飾だけでなく、内在性の因子による親電子性修飾が存在することを示唆されていましたが、残念ながら発表時間の関係だとは思いますが、その件についてのお話は聞けませんでした。またシステインコード仮説についてもお話いただけませんでした。何かの機会にぜひ小林先生にお伺いしたいものです。

 今回のワークショップでDECODE賞をいただき大変感謝しております。今後の研究を進めて行く上でとても自信になります。このような発表の評価システムは若手研究者のモチベーションの上昇につながります。今後もぜひ続けていただきたいと思います。広瀬先生による賞の発表の際、極度の緊張で他の受賞者がどなたかわからなかったのですが(ポスター発表者もいたのかもしれません)、若手による発表の多いポスター発表にも評価システムを導入するべきだと思います。またポスター発表者で受賞者があれば口頭発表の時間を設けるなどすれば良いのではないでしょうか。

 最後になりましたが、今回のワークショップを運営された深水先生と深水研の方々、そして領域代表者の五十嵐先生をはじめとする関係者の皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。


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